生き返らせて下さい

ある日、奥様を亡くしたばかりのお年寄りがやってきました。
ご相談は、奥様を生き返らせて欲しいというもの。
最愛の伴侶を亡くしたというのに、諸々の手続きに追われゆっくり側に居ることもできず、
すぐに葬式という気にはなれない、と酷く肩を落としていらっしゃいました。

「奥様はいつお亡くなりになったのですか?」と伺うと、
昨日亡くなったばかりだと話し始めて下さいました。
そして突然「生き返らせて欲しいって言ってんだよ!
お前は、そんな事もできないのかっ!」と大声を上げて、あたりはばからず泣き崩れました。
こんな無理な相談を持ちかけてしまうほどの彼の悲痛な心情は、察するに余りあります。
掛ける言葉も見つかりません…。

現状を占ってみたところ、やはり、大変なことが起きるというサインがでていました。
また、このような辛い経験が起きた場合、個人個人の元来の性質によっても、
辛さを感じる傾向は大きく異なってくるのです。
お子様はなく、これから独りきりの生活になるという彼の悲しみと不安は、容易に 想像できるものではありません。

泣き止まない彼に「またいつでも、何度でもいらして下さい」と言葉を掛けると、
「また来ます……」と言って席を立たれました。
去って行く彼を引き止められなかった私を見て、隣の占い師さんが
「お爺さん!」と駆け寄り「お支払いがまだですから、ちょっと戻りましょうね」
と肩を抱きかかえ連れ戻して下さいました。
私が一瞬迷ったのは、何のお役にも立てなかったからです。
本当に何もできなかったのです。

究極の問題を簡単に制することなど、とても出来る訳がありません。
ただこの経験は、"今、自分に出来ることは放棄してはいけない"と気付かされるものでした。
その後も生死に関わる相談を受けましたが、何度経験しても言葉に詰まってしまいます。
ですが、様々なご相談者の抱える不安に耳を傾け、辛いと感じる気持ちを少しでも和らげ、
寄り添うことができたら、という気持ちでいっぱいです。



文・構成・編集 : MONDO / 取材協力 : 采慧(サキ)




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